スペギOB鈴木勝典さん(1975年卒)から寄せられた原稿ご紹介。ギターにとりつかれて半世紀以上の男の気持ちを通じてギターそのものに興味を持っていただければ幸いです。
ギター四方山話
※ 始めに
10才頃、親父が古賀メロディーを弾いていた穂高(モーリスの前身)のガットギターをおもちゃ代わりに遊んでいた記憶があります。気が付けば、あれから50年以上の歳月が経ち、これまでにいろいろな趣味を持ちましたが、ギターだけは今でも気ままに弾き続けています。この間に、エレキギターやアコースティックギターを含め、おそらく30台以上のギターを売ったり、買ったりしてきたと思います。
今回、寄稿させていただくことになったのは、同好の皆様によりギターという楽器に興味を持っていただき、さらにギターについて、ギター音楽について語り合えたらとの思いからです。私自身、案外ギターのことを知らずに弾いていましたが、周囲の方のアドバイスや自分なりの工夫、学んだことを、僭越ながら書かせていただきます。中には偏見もあるかもしれません。皆様からのご意見もいただければ幸いです。尚、紙面の都合もあるので、ここでは専門的な話題は省略させていただきますが、興味を持たれた方は、どんどん調べてみてください。また、話の中にギターの各部の名称が出てきますので、添付の図を参照願います。
※ ギターの誕生は?
皆さんがお使いの、いわゆるクラシックギターの原型は19世紀の中ごろにアントニオ・デ・トーレスという人物によって作られました。ルーツとしては、それまでにあった、バロックギターや19世紀ギターという楽器です。(詳しくは省略)その後、ハウザーやラミレスという名工が生まれ、多くの製作者によって今日に至るのですが、基本的にはトーレスの作った原型と同じです。現在でもトーレス・モデルというギターが作られており、トーレスの偉大さが分かります。
※ ギターの材料は?
ギターの材料はもちろん木材です。但し、何でも良い訳ではありません。一台のギターには通常その目的から基本的に四種類の木材が使われます。
まず、ギターの命と言われるトップ(表面)は音の振動を伝えやすい、柔らかい木材が使われます。写真にある右側(白っぽい)はスプルース、日本では「松」と呼ばれるものです。左側(赤茶っぽい)はシダー、「杉」と呼ばれるものです。スプルースはバイオリンや他の楽器にもよく使われ、音色としては、立ち上りが良くメリハリのある音色。一方シダーは後から表面板といて用いられるようになり、マイルドで温かみを感じさせる音色と言えるでしょう。(これはあくまでも一般的な違いを述べたものです)トップ材は、柾目と言って木の中心部分を縦に切り取るので一本の木から大量には取れません。また、10年以上自然乾燥したのちにギターになります。次にサイドとバックは、ボディーを形成するために堅いものが使われます。ローズウッドという熱帯地方で伐採されるものが一番多く見られます。高級な素材は、ハカランダやジリコテ、他には、メイプルなども使われます。これらは、杢目の美しさもあり、高級家具でも見かけますが、ワシントン条約などで伐採制限があり、価格は高騰しています。写真は二台ともローズウッドです。フラメンコギターの場合、トップはクラシックギター同様スプルース、稀にシダーが使われます。サイド&バックはシープレスという軽い木材が使われますが、これは、伴奏者が狭いタブラオなどで弾く際に、ギターを右の太ももに立てて弾いていたので、軽いギターが好まれたのではではないでしょうか?ただし、フラメンコもギターソロがコンサートホールなどで弾かれるようになると、ローズウッドのギターが使われるようになりました。このギターは「両用」と呼ばれますが、フラメンコとクラシックではなく、伴奏とソロという意味です。余談ですが、最近のフラメンコ奏者は、右足を組んで、ギターを寝かせた姿勢で弾いている方がほとんどですね。パコ・デ・ルシアが日本に初めて来た時(40年位前)に、このスタイルで演奏しているのを見て驚いたのを覚えています。私は今でも立てて弾きます。
※ 単板と合板について
ギター材の説明に単板(ソリッド)とか合板(ラミネート)という表現が使われます。例えば「トップはジャーマンスプルースの単板を使用」といった具合です。前述のとおり表面板は柔らかい素材がよしとされるため、単板が理想です。おそらくほとんどのギターの表面板は単板と思われますが、サイド&バックには合板仕様が結構あります。例えば「サイド&バックはマダカスカルローズウッドのラミネートを使用」といった場合、合板は三層構造になっていて、薄いローズウッドに別の木材を挟みまたローズウッドを貼り付けます。その際
木目の向きが直角になるように貼り合わせるので強度は単板より強くなります。しかし、木目が直角なため、音の振動は打ち消し合ってしまうので高級品にはまず使われません。
ここ数年前から、「ダブルトップ」と呼ばれる、ラミネートのトップ材が注目されてきました。これは、デュポン社の「ノーメックス」という防炎素材をスプルースやシダーなどで挟んだ三層構造なのですが、別名「中空ハニカム構造」とも呼ばれ、制作者も増えてきました。マヌエル・バルエコは創始者のマティアス・ダマン制作のギターを使っています。
※ ギターの選び方
ギターを選ぶ際のポイントを挙げてみると、「音色」、「弾き易さ」、「予算」ということになるでしょうか。「音色」については試奏して実際に音を聞いてみるしかありません。誰かに弾いてもらい、客観的に聞いてみることも必要です。注意点は、すでに張られている弦です。古いものであったり、ギターとの相性の悪いものであったりするのでその点を考慮しなければなりません。できれば普段使っているギターを持参し、弾き比べると音色の違いが良くわかると思います。「弾き易さ」は大事なポイントです。まず気にしていただきたいのは「弦長」です。これはナットの内側からサドルまでの距離、つまり弦が振動している長さです。一昔前までは、音量を求めるためギターが大型化し、弦長665mmが当たり前の時期がありましたが、最近ではほとんどの製作者が650mmを標準としています。プロのギタリストの中にはあえて弦長の長いギターを選ぶ方もいますが、弦のテンションも強くなるので標準サイズの方が無難です。また、女性用というわけではありませんが640mmのショートスケールのギターも増えたように思います。しかしいろいろなギターを試奏できるのはやっぱり650mmになります。
ギターの価格ですが、ビンテージは別として、私は大雑把に新品価格100万円前後を高級品、60万円前後を中級品、30万以下を廉価品と分けています。ブランドがあり、良い素材を使い、丁寧に作られたギターはそれなりに価格が高くなります。そこでお勧めなのはネットの中古ギターのサイトです。サイトはいくつかあるので注意深く探していると、かなり格安のギターに出会えます。但し、必ず試奏することは当たり前です。実際に手にして、状態を確認してみないと、前のオーナーがどんな扱いをしていたか分かりません。下記はあるサイトに出てくるギターの紹介です。
楽器名 | ホセ ラミレス 125th |
生産国 | スペイン |
年式 | 2011 |
表面板 | スプルース |
裏板/横板 | ローズウッド |
塗装 | ポリウレタン |
弦長 | 650mm |
糸巻 | オランダ・バンゲント |
税別販売価格 | ¥155,000 |
この楽器は、ラミレスの125周年の記念に販売されたギターで、新品の価格は35万円です。サイトの説明文では「キズの無い美品」とありました。制作から5年が経っていますが、半額以下の価格で販売されています。
※ ギターの塗装
塗装は「フィニッシュ」と呼ばれ、耐候性を上げるためにとても重要ですが、音色に大きな影響を与えます。いろいろな塗装がありますが、塗膜(とまく)が薄いほど、音色に影響を与えません。「セラック(フレンチ・ポリッシュ)」は非常に薄く、何回も塗り重ねるので手間がかかります。そのため高級品によく用いられますが、経年劣化が早く、紫外線や湿気に弱いのが難点です。次に「カシュウー」や「ラッカー」が一般的です。塗膜はやや厚くなりますが、耐候性は「セラック」より良くなります。但し、手入れを怠ると、経年劣化としてクラック(ひび割れ)や白濁が起こります。「ポリウレタン」はこの中で、一番塗膜が厚くなります。以前は、廉価品のギターに使われた塗装ですが、最近は塗装後に塗装面を研磨し、塗膜を薄くする工夫がされており、ラミレスなどは高級品にも使われています。通常はクロスの空拭きで艶を保てるので手入れが非常に楽です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。思いつくままに書きましたので読みにくいところはお詫びいたします。是非、皆様からもご意見や質問をいただければ幸いです。次回は「ギターの弦」について書かせていただきたいと思います。